夕方5時半は『トムとジェリー』

「昔、夕方5時台はアニメタイムだった」という記事を以前に書いたが、
夕方5時30分からは「トムとジェリー」の再放送が定番だった。

夕方5時30分からの待ちに待った時間

屋外で遊んでいても、室内でブロック遊びをしていても、
5時になれば、遊んでいる途中であってもテレビの前に座り、
5時30分に「トムとジェリー」を観ながら夕食を食べ始めるのが日常だった。
(後で「散らかしたブロックはちゃんと片付けろ」と親に叱られるまでがセット)

トムとジェリーの追いかけっこ。
ジェリーのイタズラに怒ったトムがジェリーを追い回すのだが、
大きなトムが小さなジェリーに反撃されてヘナヘナになったりする。
そんなドタバタ劇が、子供の僕には面白かった記憶がある。

初代と新版で変わったトムとジェリーの世界

僕の記憶の中に、「トムとジェリー」は

  • 小さい頃から観ていた「トムとジェリー」
  • 後から新しく放映された「新・トムとジェリー」

の2種類存在している。

この「初代」と「新版」では、トムとジェリーの関係性など設定が少し変わっている。

「初代」は1940年~50年代に作られた短編アニメーションがテレビで放映され、
1960年代半ばから日本でも放映されていたものである。
一方、「新版」は1975年にアメリカで放映されたもので、
表現方法に制限がかけられたものだそうだ。

「1965年以降、ハンナ=バーベラ期の作品がCBSで放映され人気を博した。
(中略)
いくつかの作品は修正が行われ、一部の差別的、暴力的とされたシーンも編集で削られており、
(中略)
1975年、テレビシリーズ『新トムとジェリー』がABCにて約1年間放送。
MGMとハンナ・バーベラ・プロダクションの共同制作で、
再びハンナとバーベラが製作にあたることになった。
テレビの暴力描写の規制のため、トムとジェリーが喧嘩をせず一緒に冒険に出るなど
ストーリーは大きく変わった。」

トムとジェリー – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC

確かに、思い返してみれば変化はあった。

「初代」

  • トムとジェリーは「喰う喰われる」の関係
  • 表現が過激(ハンマーで殴られて変形、爆発して真っ黒、など)
  • 黒人を揶揄する表現や倫理的な問題
    (ベビーシッターのネグレクトなど)が散見

「新版」

  • トムとジェリーは「相棒」の関係に
  • 表現は「初代」と比べて穏やか
  • 差別的な表現や倫理的に問題がある表現は無くなった(様に見えた)

小さい頃は「初代」を問題無く観ていたが
中学生になった頃にふと思い出した時、「初代」の問題点を理解し始めたと記憶している。

遅れて日本でも「ダッコちゃん人形」「ジャングル黒べえ」など、
黒人差別だとして批判されて消えていった商品や作品が有った事も同時に思い出される。

気になる問題点と、それを超える面白さ

令和で見ると見過ごせない問題点

僕が個人的に考える「初代」の問題点をいくつか深掘りしてみる。

  1. 『黒人差別』(「こわいお手伝いさん」「台所戦争」など)
    トムや他のキャラクターが黒焦げになった際には
    「チリチリ頭」や「愚鈍な振る舞い」など
    全て当時の黒人のステレオタイプで描かれていた。
    黒人だけでは無く、ネイティブアメリカンを揶揄する表現も有った。
    当然、現代では許されない表現だと思う。
  2. 『ネグレクト』(「赤ちゃんは楽だね」「赤ちゃんは知らん顔」)
    ベビーシッターが子守の仕事を怠けて友人と電話し始めるが
    その間に赤ん坊がベッドから居なくなってしまう。
    トムとジェリーが連れ戻そうとするが、
    ベビーシッターが怒って2匹を叩き出す、という場面がある。
    『育児放棄』は昨今、日本国内で社会問題にもなっており
    これも現代では受け入れられない表現になるのではないかと思う。
    なお、倫理的に問題があるところが嫌われているのかは不明だが
    ハンナ=バーベラ期の作品の中で非常に評価が悪いらしい。
  3. 『暴力描写』(多数)
    下記などの表現が見られ、この辺がアメリカのテレビ放映時に規制されたと思われる。
    この描写に関しては、個人的にはあまり問題視してなかったが
    大人になって考えた時に、批判する向きが有るだろう事が理解出来るようになった。
    • ハンマー等で平べったく潰されても復活する
    • 鉄砲や刀剣などで激しく攻撃する
    • 爆発で真っ黒焦げになる(『黒人差別』表現にもつながる)

このように、令和の時代では許容できない表現がある。

…でも、夕方5時30分は本当に楽しかった

では、子供の僕をなぜあれほど惹きつけたのかを改めて考えてみる。

  1. 1話完結の2本立て
    厳密には、間に1本(ドルーピーが出てくる話など)入って『3本立て』。
    1話あたり約7分で収められていて、集中力の無い子供でも最後まで見る事が出来るスピード感だった。
    その短く限られた時間内でもそれぞれの話が「オチ」までしっかりとつけて完結する事で、結果的に多くの子供を楽しませる事が出来たのではないだろうかと思う。
    それは「ドラえもん」や「サザエさん」にも通じるのでは無いだろうか。
  2. 「なかよくけんかしな」
    同世代の方なら恐らくご存じ、「初代」の日本語主題歌のワンフレーズ。
    この歌、訳詞ではなく日本オリジナルなのだそうだ。
    時にゃシャクだし 泣きたいよ
    ムカムカと 腹が立つ
    ネズミだって生き物さ
    ネコだって生き物さ
    トムとジェリー なかよくけんかしな
    上記のフレーズを、僕は勝手にこう解釈している。
    泣きたい事があるだろう。
    腹が立つ事もあるだろう。
    でも、相手だって自分と同じ。
    憎しみ合わず仲良くしようよ。
    アメリカ版はよく知らないが、日本語版に限ってはこの歌で暴力のイメージが和らいでいるような気がしている。

そういった観点から見ると

  • 体格で勝るトムに対して、ジェリーも対等に渡り合えている
  • 恨み辛みは無く、人格攻撃など陰湿なケンカはしていない
  • 上述のベビーシッターに対して、むしろ助け合っていたりもする

そこに「ケンカするほど仲が良い2匹がケンカをしている」という安心感があるのではないだろうか。

だから今も、良い思い出

令和の常識で観ると、「トムとジェリー」にはいろいろと問題点が有る事も理解している。
それでも、あの夕方5時半の楽しかった時間の記憶は、今もはっきり残っている。

短時間で完結するテンポの良さ。
そして「なかよくけんかしな」というフレーズが与えてくれる、どこかほっとする安心感。

そうした要素こそが、時代を越えて子どもを楽しませる作品の原点なのではないかと感じている。
現に、ブロックを片付けずに笑い転げて楽しみ、後から親に叱られたあの時間を、
いつまでも懐かしく思い出しているオッサンが、ここにいるのだ。

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